外国語が目立つ「バイオ・ジャパン2023」に行ってきた
お固い雰囲気の中、日本酒と泡盛、道上ワインに遭遇する!?
プレゼンテーションステージC
2023年10月、パシフィコ横浜で開催された「バイオジャパン2023」には、コ
ロナ下を含めて3年連続で訪れています。
「バイオ・ジャパン2023」は同時開催の再生医療ジャパン、ヘルステック・ジャパン
並びにジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットを含めて、会場案内、パンフレット等
英語表示が多く、会場内も外国人の割合が高いアジア最大級の展示会です。
医薬品をはじめ、医療機器、再生医療等製品、創薬技術等のプラットフォーム、研究機
関の他、ベンチャー・キャピタル、コンサルティングなどが一堂に会してます。大企業や
国の研究開発機構とともに、目立つのは全国各地の自治体と全国の大学のブースが並んで
いることです。企業ブースも研究開発型が多いようで、お固い印象があります。
そんな中「横浜・川崎」パビリオン内では、酸素補給水WOX、アルコールや次亜塩素
酸に替わる安心・安全・多機能なクリーン水(溶液)であるHTシルバー(強化安定化銀
イオン)などの製造販売を行っている研究開発型ベンチャー「メディサイエンス・エスポ
ア株式会社」(松本高明社長)が、健康チェックのための「毛細血管観察」を行っていま
した。
コロナ下では酸素の重要性が再認識されましたが、健康を保つにはいかに酸素を体の隅
々まで送ることができるかが重要になります。毛細血管の長さは地球2周半(約10万キ
ロ)とも言われ、全身の血管の90%にあたります。この毛細血管内を流れる赤血球が細
胞一つひとつに水・栄養・酸素を供給し、二酸化炭素等の老廃物を体外に排出する働きを
しています。
毛細血管観察では利き手の逆の薬指の毛細血管を観察、血流の状態を確認した後、少量
のWOXを飲むことで、わずか数分で血流スピードがアップする(血行が良くなる)こと
が確認されます。興味深い事実です。
恒例の毛細血管観察の他、今年は「プレデンテーションステージC」で、同社の松本高
明社長の講演があるというので、聞きに行きました。
その日のステージCのプレゼンテーションは帝京平成大学から始まって、新潟大学、日
本大学、聖路加国際大学、東京医科歯科大学など、ほとんどが大学及び研究所などの専門
機関であり、その中でのベンチャー企業は貴重な存在です。
幅広い酸素補給水WOXの効果
メディサイエンス・エスポアの松本社長のテーマは「飲む酸素『WOX:酸素包接水和
物含有』を使用したバイオ戦略」です。
2022年に日・米・中で物質特許を取得した「WOX」には新物質の「酸素包摂水和
物」が水に溶存しています。この物質により、飲用のみならず、肌に塗布しただけでも酸
素を水分とともに体内に補給できるというのです。実際に、筋肉に作用する実験データも
あります。
さらに、意外なのが、自動車エンジンのエアフィルターにスプレーすると、1割ほどの
燃費改善・排ガスクリーン効果があることが証明されていて、いまではヨーロッパ、アメ
リカ、南米そしてアジアなど、世界各国で愛用されています。
同社の特許技術によるWOXには、開栓後128カ月(10年以上)、煮沸、凍結、水
蒸気にしても酸素濃度は安定したままです。酸素は「酸化」という言葉があるように、他
の物質と反応しやすいのですが、WOXには医薬品や化粧品、食品やサプリメントなどの
成分と反応しないという特徴があります。
化粧品、食品、医薬品、環境改善、農業、畜産、ペット業界などの酸素補給材料として
「WOX」活用が、すでに広がっていて、農業ではベビーリーフの水耕栽培で播種の発芽
率が向上した他、生育が3日早いとの実験結果が出ています。野菜工場で栽培期間が3日
短くなると、利益が1割以上アップします。しかも、土壌を選ばずに、トマト、レタスな
どでも発芽、生育スピードがともに向上するという結果が出ています。
また、うどんこ病やダニが発生したミニトマトときゅうり用のハウスでは、HTシルバ
ーを散布することによって、病気やダニの発生がなくなるとの実験結果が得られるなど、
WOX並びにHTシルバーの特徴と各業界での画期的な実験結果を報告してました。
もともと、メディサイエンス・エスポアが酸素水に取り組んだのは、野口英世博士が語
った「すべての病気の原因は酸素欠乏症である」との指摘からです。当然ながら、その対
象、応用範囲は広くなります。
多くの大学・研究所の研究テーマが、専門分野に特化して、医療面では対症療法的なの
に対して、WOXによる酸素補給効果は、人間の生存並びに健康に不可欠な栄養素だけに
総合・統合的な対応の広さがあります。
あまりに本質的な栄養素であり、幅広い応用範囲があるため、ユニークではあっても、
いわゆる学術的な研究テーマにはなりにくい、そんな印象があります。
メディサイエンス・エスポアの松本社長の講演が終わって、同ブースで道上ワインを振
る舞うという4時半には、まだ時間があるため、引き続き熊本大学の発表を聞いてみまし
た。
熊本大学のプレゼンテーション
熊本大学に限らず、各大学の研究テーマは、専門的過ぎて、ついていけない内容のもの
が少なくありません。
例えば「脂肪細胞の活性化を亢進する内在性タンパク質による治療」は、熊本大学院生
命科学研究部「代謝内科講座」阪口雅司助教のテーマです。
門外漢にとってのヒントは「脂肪」ぐらいなものです。確かに、脂肪は皮膚の下部組織、肝臓、血液の「脂肪細胞」に蓄えられます。
研究の背景には、肥満や一般的な2型糖尿病は、脂肪細胞のインシュリン抵抗性が原因
であり、エネルギーを燃焼させる褐色脂肪が加齢に伴って、減少することが根底にありま
す。この褐色脂肪の再生に関わる因子を血清プロテオミクス(タンパク質解析)により、
分泌性タンパク質を同定。同タンパク質が脂肪細胞のミトコンドリアの活性化を通じて、
褐色脂肪を活性化し、増加を促進することを確認、脂肪細胞に作用することがわかってき
ました。
この分泌性タンパク質は別の疾患の治療薬として臨床応用されており、さらに抗肥満・
抗糖尿病薬への改変体等の開発が行われているということです。
大学医学部付属病院の中村朋文氏のテーマ「新規作用型抗真菌薬の開発」では、超高齢
化社会を迎えた我が国で、血液疾患・膠原病・悪性腫瘍の治療による免疫不全者や、糖尿
病による免疫力の低下した易感染者が増えたことにより、深在性真菌症の患者数が増加し、既存の抗真菌薬の使用頻度が増加しています。
深在性真菌症とは水虫などの表在性真菌症に対して、真菌(カビ)が肺や肝臓、腎臓、
脳など体の深部に入り込んで感染を起こすものです。
抗真菌薬の使用が増える一方、真菌が引き起こす感染症で、かつては接合菌症と呼ばれ
たムコール症など治療抵抗性、つまりは薬の効かない真菌症が問題になっています。
今回、既存の薬剤(アゾール系やポリエン系)と作用機序の異なる難治性真菌症に抗菌
活性を有する化合物を同定したことから、さらに抗真菌薬の開発のため、企業連携、共同
研究を呼びかけていました。
熊本大学・大学院先導機構の東大志氏による「がんに選択的に集積する超分子化合物:
中性子補足療法のためのホウ素薬剤や薬物キャリアとしての応用」の時間は、がんという
メジャーなテーマのためか、見学者が目立って増えていました。
近年、新たながん治療法として、正常細胞にほとんど損傷を与えず、がん細胞を選択的
に破壊するという治療法、ホウ素中性子補足療法(BNCT)が注目されています。
次世代型がん治療法として、治療効果が高いとはいえ、効果的なBNCTを実現するた
めには、がんに高用量のホウ素薬剤の投与が必要です。
東氏の研究では「超分子ポリロタキサン(PRX)にフルオロフェニルボロン酸(FP
BA)を修飾し、高いがん集積性を有する超分子ホウ素薬剤(FPBA−PRX)を構築。FPBA−PRXは抗がんカンパク質を選択的にデリバリーする薬物担体として有用であ
る可能性がある」というわけですが、このへんの説明は素人には専門的過ぎて、ついては
いけない印象です。
感染症が死因のトップになる時代
興味深かったのが、抗真菌薬の開発にも関連すると思われる薬剤耐性菌に関する研究発
表です。
熊本大学・大学院生命科学研究部「微生物学講座」澤智裕宏教授のテーマ「メタロβラ
クタマーゼ阻害剤の開発」に関するメタロβラクタマーゼ(MBL)は、近年深刻となっ
ている薬剤耐性菌問題の中で重要視される酵素の一つです。
背景にあるのは、カルバペネム耐性菌感染症の増加であり、感染症に対する「最後の砦」と呼ばれたカルバペネム系抗生物質に対して、一部の細菌が耐性を獲得し始めているとい
う問題です。
メタロβラクタマーゼは、このカルバペネム系抗菌剤(抗生物質)を不活化する酵素と
して知られています。しかしながら、この酵素を標的とする阻害剤は、いまだ臨床使用さ
れておらず、阻害剤の開発が急務とされているということです。
事実、近年の日本での死因は悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患ですが、近い将
来、カルバペネム耐性菌感染症が死因のトップになると話していました。
澤教授の研究は「キレート剤を既存のβラクタム抗菌剤に結合した新規化合物(DTP
A−cefalexin)を合成し、その効果を検討した」というもので、βラクタム抗
菌剤にキレート構造を導入した化合物は、これまでに報告のない新規化合物ということで
す。
今回の発明が、メタロβラクタマーゼの阻害作用とともに、細菌に対するカルバペネム
系抗菌剤の効果を増強できることが明らかになったということで、今後が期待されます。
確かに、医原病をはじめ、院内感染、薬剤耐性菌の問題は、ずいぶん前から言われてき
ましたが、耐性菌による死が近い将来の死因のトップになると言われていることは知りま
せんでした。欧米では広く注目されている研究テーマだということです。
その効果が期待されると同時に、近年のワクチンに限らず、新たな薬で抑えることは、
やがて次なる問題が生じてきます。もぐら叩きに似た展開が繰り返されるのではなないの
かと、そんな気にもなります。
結局のところ、人間の免疫力の向上こそが、究極の抗菌対策ではないのでしょうか。そ
んなことを考えるのも、意外なところで、元気な酒盛りが行われていたためです。
大盛り上がりの日本酒の樽割り
熊本大学の発表が終わった後、新潟県長岡市「長岡バイオエコノミーコンソーシアム」
のブースに行ったところ、大きな人だかりができていて、前に進めません。
何事かと思ったら、みんな小さな紙コップを手に、まさに日本酒の鏡開きの瞬間を待っ
ているところでした。威勢のいい掛け声とともに、酒樽の上蓋が割れて、歓声と拍手が起
きました。
あとは、ブース前での酒盛りです。地元の高校生がつくった日本酒などの他、長岡の地
酒メーカーの酒が何本も並んでいました。
飲み比べてみれば、端麗辛口と言われる新潟の酒ですが、当たり前に蔵元による味のち
がいがあることもわかります。
すっかりいい気分になって、道上ワインを振る舞うというメディサイエンス・エスポア
のブースに行く途中、沖縄のブースでは「甕仕込み」を謳った泡盛の試飲会が行われてい
ました。
といっても、そこは「公益財団法人・沖縄科学技術振興センター」のブースです。泡盛
の試飲会とは、少しかけ離れたお固いイメージのためか、長岡市のブースほどの盛り上が
りはありません。
一方、メディサイエンス・エスポアのブースでは、ボルドー産の「道上ワイン」と高級
クッキーが用意されていました。ブランデーにチョコレート、ウイスキーにポッキーチョ
コが合うように、クッキーに赤ワインという組み合わせも新鮮でした。
昨年、一昨年とは明らかにちがう雰囲気の中、お酒の試飲が3カ所で楽しめるとは思い
ませんでした。コロナ明けのイベントの象徴的風景ということかもしれません。
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